研究倫理の同意説明文を書くときのチェックリスト
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インフォームド・コンセント文書に何を書くべきか、初めて倫理審査に出す院生向けに整理します。必須項目に加え、撤回をいつまで実務として受け付けられるか、オンライン実施特有の論点、未成年参加者への配慮まで具体的に扱います。
倫理審査に説明文書を出すのが初めてだと、何をどこまで書けばいいのか見当がつかないという声をよく聞きます。書きすぎると参加者が読まなくなり、書かなさすぎると審査で差し戻されます。この記事では、多くの機関で共通して求められる項目と、書き方で迷いやすいポイントを整理します。
ただし、倫理審査の具体的な要件は所属機関・学会・研究費の出所によって細部が異なります。ここに書く内容は「多くの機関で一般的に求められる」項目の整理であり、断定的な規則の提示ではありません。実際の文書を作成する際は、必ず所属機関の倫理審査委員会の様式・手引きを確認してください。
説明文に入れる基本項目
説明文書は「参加者が読んで、参加するかどうかを自分で判断できる」ことが目的です。多くの機関の様式で共通して求められる項目を表にまとめます。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 研究の目的 | 専門用語を避けて、何を明らかにしたい研究なのかを2〜3文で |
| 手続きの内容 | 何をしてもらうか、どんな課題・質問に答えるか、時間の流れ |
| 所要時間 | 「約20分」のように具体的な数字で。休憩の有無も書く |
| リスクと不利益 | 身体的・心理的負担、疲労、不快な気持ちになる可能性 |
| 利益 | 直接的な利益がない場合はその旨を明記する(過度な期待を持たせない) |
| 謝礼 | 金額・形式(現金・図書カード・ポイント等)、途中辞退時の扱い |
| データの扱い | 匿名化の方法、保存期間、保存場所、第三者提供の有無 |
| 参加・撤回の自由 | 参加は任意であること、不利益なく途中でやめられること |
| 問い合わせ先 | 研究責任者の連絡先、倫理審査委員会の窓口 |
この中でも「リスクと不利益」と「利益」は書き落としやすい項目です。心理学研究では身体的リスクがなくても、質問内容によっては思い出したくない経験を想起させる、自己評価に触れて気分が沈む、といった心理的な負担が生じ得ます。「特にリスクはありません」と一行で済ませず、想定される負担を具体的に書き、負担を感じた場合にどう対応してもらえるか(中断してよい、相談窓口がある等)もあわせて書くと審査が通りやすくなります。
「いつでも撤回できる」の実務上の限界を書く
説明文書には必ず「参加への同意はいつでも撤回できる」という趣旨を書きます。ここでつまずきやすいのが、撤回を実務としてどう受け付けるかという点です。多くの院生が見落とすのは、匿名化してしまったデータは、どのデータが誰のものか分からなくなるため、撤回の申し出があっても該当データだけを取り除くことができないという点です。
これは決して「撤回を軽んじてよい」という意味ではなく、むしろ参加者に対して誠実に説明すべき制約です。説明文書には次のような情報を分けて書くとよいでしょう。
- どの時点までなら、参加者本人を特定してデータを削除できるか(例: 実験当日中、匿名化処理を行う前まで)
- 匿名化・集計後は、技術的にデータを特定して削除することができない旨
- 撤回の連絡先と、連絡時に伝えてほしい情報(参加日時や整理番号など、本人特定に使える範囲で)
- 撤回によって謝礼の扱いがどう変わるか(すでに受け取った謝礼の返還を求めない、が一般的)
「いつでも撤回できます」とだけ書いて実務が伴わないと、参加者が撤回を申し出た際に対応できず、結果として説明文書と運用が矛盾してしまいます。データ収集の設計段階で、いつ・どのように匿名化するかを決めてから、撤回可能な期限を文書に書く順番で進めると矛盾が生じません。
参加者が読んで分かる日本語にする
説明文書は専門家ではなく参加者に向けて書きます。よくある改善ポイントは次の3つです。
専門用語を言い換える
「実験群と統制群にランダムに割り付ける」は「参加者を2つのグループに無作為に分け、それぞれ異なる課題を行っていただく」のように言い換えられます。「無作為」も分かりにくければ「くじ引きのようにランダムに」と補足してもよいでしょう。
一文を短くする
説明文書は法律文書ではないので、一文60字を超えるあたりから読みにくくなります。「〜であり、〜のため、〜となりますので、〜してください」のような多重の接続を避け、一文一義を意識します。
見出しと箇条書きで構造化する
びっしり詰まった段落よりも、「1. 研究の目的」「2. お願いすること」のように番号付きの見出しで区切ったほうが、参加者は自分が知りたい情報にたどり着きやすくなります。
オンライン実施で増える論点
オンラインで実験・調査を行う場合、対面にはない論点が増えます。事前に整理しておくべき点を挙げます。
- 同意取得の方法: 画面上のチェックボックスやボタンで同意を取得する場合、その操作が「同意した」ことになる旨を明示する。押し間違いを防ぐため、同意前に説明文書を最後までスクロールさせる、確認画面を挟むといった工夫も検討する
- IPアドレス・デバイス情報の扱い: 二重回答防止やシステム運用のために自動的に記録される情報がある場合、その旨と保持期間、研究データとして使うかどうかを書く
- データの保管場所: 利用するフォームツールやクラウドサービスのサーバーがどこにあるか(国内・海外)、委託先が存在するかを把握し、必要であれば説明文書に反映する
- 通信環境による中断: 通信トラブルで回答が中断した場合にデータがどう扱われるか(保存されない、途中まで保存される等)を書いておくと、参加者からの問い合わせを減らせる
Psynaut のようなオンラインでフォーム作成や日程調整を行うサービスを使う場合も、説明文書に書く内容は上記と変わりません。ツールの仕様(データの保存先や匿名化のタイミングなど)を先に確認したうえで、説明文書に反映する順番で進めるとよいでしょう。
未成年・学生が参加者のときの配慮
参加者が未成年の場合、多くの機関で保護者等の代諾(代理での同意)が求められます。加えて、本人にも年齢に応じた言葉で説明し、本人の意思(アセント)を確認することが望ましいとされています。代諾書と説明文書は分けて用意し、どちらも保管が必要かを事前に確認してください。
大学の授業や研究室内で学生を参加者として募る場合は、成績評価や単位認定と参加の可否を切り離すことが重要です。教員が担当する授業の受講者を参加者にする場合、次の点を説明文書に明記しておくと誤解を防げます。
- 参加・不参加が成績・評価に一切影響しないこと
- 参加しない場合の代替措置がある場合はその内容
- 教員自身が研究者である場合、評価者としての立場と研究者としての立場が分かれていること
特に指導教員が自分の担当する授業の受講生を対象に研究を行う場合は、権力関係が同意の自由さに影響しないよう、募集方法(授業時間外に別途案内する、参加者の氏名が教員に分からない形で回収する等)も含めて設計段階から検討することが望まれます。
提出前のセルフチェック
説明文書を審査に出す前に、次の観点で読み返すとよいでしょう。
| チェック項目 | 確認の視点 |
|---|---|
| 専門用語 | 研究に関わりのない人が読んで意味が通るか |
| 撤回の実務 | 「いつまで」「どこに連絡すれば」撤回できるかが具体的に書かれているか |
| リスクの記載 | 心理的な負担も含めて具体的に書かれているか |
| オンライン特有の項目 | 実施方法に応じて、同意取得方法・データ保管場所が書かれているか |
| 様式との整合 | 所属機関の最新の様式・記載例と項目のズレがないか |
説明文書は一度書いたら終わりではなく、審査でのコメントを踏まえて改訂を重ねるものです。早めに指導教員や倫理審査委員会の事前相談窓口に見てもらい、フィードバックをもらう時間を確保しておくことをおすすめします。
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